デジタルノマドビザについて

1、「デジタルノマド」とは
ノマドとは、場所に縛られずに自由に移動しながら生活をする遊牧民を指す言葉です。
そして「デジタルノマド」とは、インターネットを活用してリモートワークを行い、世界のどこにいても仕事をする人々を指します。
政府は、特定活動(告示53号)(デジタルノマド)という新しい在留資格を創設しました。
これにより、一定の要件(後述)を満たした「デジタルノマド」の方々が日本に滞在しながらノマド生活を送れるようになりました。
では、なぜこの新制度が必要だったのでしょうか?
既存の在留資格ではできなかったことがあったのでしょうか?
この点について一緒に探ってみましょう。
2、特定活動(告示53号)(デジタルノマド)が創設された理由(他の在留資格との比較)
デジタルノマドビザ(特定活動53号)が新設された理由は、これまであった在留資格では該当しない活動をするために日本に滞在することが可能になるからです。
ここからは、他の在留資格ではデジタルノマドに当たる活動ができなかったのかを、それぞれの在留資格と比較しながら考えていきます。
先ず、デジタルノマドビザについては認められる活動として、特定活動告示に次のように定められています。
https://www.moj.go.jp/isa/content/001360125.pdf
特定活動(告示53号)(デジタルノマド)
○本邦において6月を超えない期間滞在して国際的なリモートワーク等を行う者である場合
・外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体との雇用契約に基づいて、本邦において情報通信技術を用いて当該団体の外国にある事業所における業務に従事する活動
又は
・外国にある者に対し、情報通信技術を用いて役務を有償で提供し、若しくは物品等を販売等する活動
※ 活動内容について、本邦に入国しなければ提供又は販売等できないものを除く
※ 資格外活動許可は原則認められない。本邦の公私の機関との雇用契約等に基づく就労活動は不可。
次に、本邦での技術者として活動することが認められている「技術・人文知識・国際業務」、外国機関から本邦の関連機関へ転勤してくるための「企業内転勤」、短期商用や旅行者として来日するための「短期滞在」、親や配偶者からの扶養を受けながら本邦で生活する「家族滞在」をあげ、どの部分がデジタルノマドに該当しないかということを見ていきます。
在留資格「技術・人文知識・国際業務」 (入管法別表一の二)
本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(入管法別表第一の一の表の教授、芸術、報道の項に掲げる活動、二の表の経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、企業内転勤、介護、興行の項に掲げる活動を除く。)
該当例としては、機械工学等の技術者、通訳、デザイナー、私企業の語学教師、マーケティング業務従事者等。
在留資格「技術・人文知識・国際業務」は、本邦の公私の機関との契約に基づく必要があるので、「デジタルノマド」はこの資格に該当するとは言えません。裏を返せば、本邦の公私の機関との契約に基づく活動であれば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で滞在できる可能性もあるということです。
在留資格「企業内転勤」 (入管法別表一の二)
本邦に本店、支店その他の事業所のある公私の機関の外国にある事業所の職員が本邦にある事業所に期間を定めて転勤して当該事業所において行う入管法別表第一の二の表の技術・人文知識・国際業務の項に掲げる活動。
該当例としては、外国の事業所からの転勤者。
在留資格「企業内転勤」は、本邦にある事業所において活動を行う必要があるので、「デジタルノマド」はこの資格に該当するとは言えません。ただし、ここでも言えるのは、本邦の事業所に期間を定めて転勤してくるのであれば、「企業内転勤」の在留資格で滞在できる可能性があるということです。
在留資格「短期滞在」 (入管法別表一の三)
本邦に短期間滞在して行う観光、保養、スポーツ、親族の訪問、見学、講習又は会合への参加、業務連絡その他これらに類似する活動
該当例としては、観光客、会議参加者等。
在留資格「短期滞在」は、観光、保養、スポーツ、親族の訪問、見学、講習又は会合への参加、業務連絡その他これらに類似する活動であり、また収入を伴う活動を本邦で行うことは原則認められていない(※報酬を受け取る場所が国外であったとしても)ため、「デジタルノマド」として報酬を受ける活動を本邦で行うことはできないということになります。
在留資格「家族滞在」 (入管法別表一の四)
入管法別表第一の一の表の教授、芸術、宗教、報道、二の表の高度専門職、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、介護、興行、技能、特定技能2号、三の表の文化活動又はこの表の留学の在留資格をもって在留する者の扶養を受ける配偶者又は子として行う日常的な活動。
該当例としては、在留外国人が扶養する配偶者・子。
在留資格「家族滞在」は、扶養を受ける必要があるので、原則就労することができません。また、仮に資格外活動許可を得たとしても、デジタルノマドの報酬が社会通念上被扶養者のそれを超えた場合に、「扶養を受け」ていないと判断されることもあり、「デジタルノマド」の方がこの在留資格で滞在しようとする場合は、慎重に検討する必要があります。
在留資格「特定活動(告示5号(ワーキング・ホリデー))
ワーキング・ホリデー制度とは、二国・地域間の取決め等に基づき、各々が、相手国・地域の青少年に対し、休暇目的の入国及び滞在期間中における旅行・滞在資金を補うための付随的な就労を認める制度です。各々の国・地域が、その文化や一般的な生活様式を理解する機会を相手国・地域の青少年に対して提供し、二国・地域間の相互理解を深めることを趣旨とします。(外務省 HP より)
在留資格「特定活動(告示5号(ワーキング・ホリデー))は、本邦において一定期間の休暇を過ごす活動並びに当該活動を行うために必要な旅行資金を補うため必要な範囲内の報酬を受ける活動を行う必要があるので、「デジタルノマド」はこの資格に該当するとは一概には言えません。しかし、ワーキング・ホリデーに関する協力覚書等の規定の摘要を受ける者が、ワーキング・ホリデー制度の趣旨に合致するような一定期間の休暇を過ごし、必要な旅行資金を補うためリモートワークで収入を得るのであれば、「特定活動(告示5号(ワーキング・ホリデー))の在留資格で滞在できる可能性があります。
しかし、ワーキング・ホリデーには査証発給要件があり、年齢制限や被扶養者の同伴不可等の要件が課されています。
詳細は外務省 HP でご確認ください
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/visa/working_h.html
3、特定活動(告示53号)(デジタルノマドビザ)でできること
例えば、
・長期旅行とリモートワーク収入
日本を旅行するために設けられた在留資格としては、「短期滞在」、「特定活動5号、5号の2(ワーキング・ホリデー)」、「特定活動40号(観光・保養を目的とするロングステイ)」が挙げられますが、いずれもデジタルノマドを想定したものではありませんでした。
特にワーキング・ホリデーは上述した通り、ワーキング・ホリデー制度を導入する“相手国・地域に居住する”“相手国・地域の”国民・住民であることや、査証申請時の年齢が18歳以上30歳以下であること、子又は被扶養者を同伴しないことなどの査証発給要件がハードルとなります。
新設された「特定活動53号」であれば、仕事を休むことなく、リモートワークで収入を得ながら、長期(最長6月)にわたって日本を旅行することも可能になります。
・配偶者と同居しながらリモートワーク収入
上述の通り、「家族滞在」の在留資格は「扶養を受ける活動」と定められていますが、リモートワーク等で多くの収入を得ているため扶養を受けるとは言えない方が、親や配偶者と一緒に日本で暮らすことを希望していたとしても、「技術・人文知識・国際業務」や「企業内転勤」、「経営・管理」等、他の在留資格に該当しない限りはそれが叶わなかった訳ですが、デジタルノマドビザの新設により、それも可能になっていきます。
また、デジタルノマドの方から扶養を受ける家族として、特定活動54号も同時に新設され特定活動に記されています(後述)。
4、特定活動(告示53号)(デジタルノマド)のその他の内容
冒頭で『一定の要件を満たした「デジタルノマド」の方々が日本に滞在しながらノマド生活を送れるようになりました。』と述べましたが、ここからは、「特定活動53、54号」の要件やその他どのような定めがあるかを見ていきます。
特定活動(告示53号(デジタルノマド)
在留期間 6月(更新不可)。なお、出国後6か月以降は再度本在留資格で本邦滞在が可能。
※ 在留カードの交付対象外となります。
対象となる国・地域 対象者については、別添(対象国・地域一覧(末尾に掲載)の国籍等を有する必要がある。
必要年収 申請の時点で、申請人個人の年収が1,000万円以上であること。
その他要件 死亡、負傷及び疾病に係る海外旅行傷害保険等の医療保険に加入していること(滞在予定期間をカバーするもの)。
※ 傷害疾病への治療費用補償額は1,000万円以上が必要。
特定活動(告示54号)(デジタルノマドの配偶者・子)
在留資格に該当する活動 ○ 本邦において6月を超えない期間滞在して国際的なリモートワーク等を行う者に帯同する配偶者又は子である場合
本邦において6月を超えない期間滞在して国際的なリモートワーク等を行う者として特定活動の在留資格を決定された者の扶養を受ける配偶者又は子として行う日常的な活動
※ 資格外活動許可は原則認められない。
在留期間 6月以内(更新不可)
※ 在留カードの交付対象外となります。
対象となる国・地域 対象者については、別添(対象国・地域一覧(PDF))の国籍等を有する必要がある。
その他要件 死亡、負傷及び疾病に係る海外旅行傷害保険等の医療保険に加入していること(滞在予定期間をカバーするもの)。
※ 傷害疾病への治療費用補償額は1,000万円以上が必要
※特定活動(告示54号)(デジタルノマドの配偶者・子)により、デジタルノマドの配偶者や子も一緒に日本に在留することができるようになりました。
上の表の「在留期間」欄を見てお気づきの方もいるでしょうが、デジタルノマドビザの方は在留カードの交付
対象外となっています。つまりは、住民として登録されないことになり、国民健康保険に加入することはできませ
ん。また、本邦の公私の機関との契約に基づく就労活動は認められていないため、社会保険加入の対象外とな
ります。そのため、上の表「その他要件」欄に記されたような医療保険加入が義務付けられています。
〇在外公館で特定活動ビザ(デジタルノマド・デジタルノマドの配偶者等)申請、または、査証免除で入国後、
本人が入管庁に在留資格認定証明書交付申請を行います。
〇日本滞在中の給与所得の所得税については、ほとんどの方が非課税と想定されますが、詳細は国税庁
HP「租税条約等に関する情報」をご確認ください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/sozei/sozei.htm
5、「留学生」が自らのリモートワーク収入で経費を支弁する場合
例えば外国企業に雇われている外国人が、そこに所属したまま日本への留学を希望した場合、その経費を奨学金や親からの仕送りではなく、デジタルノマド的な収入で支弁する場合はどうすればよいのでしょうか。
デジタルノマド活動よりも留学生としての活動が中心となる場合は、当然に「留学」の在留資格を選択することになります。また、在籍するための在留資格を「留学」に限定している学校もあります。
調査の結果、そのような場合は一般的に留学生が受ける資格外活動の「包括許可」ではなく、「個別許可」を受ける必要があるということです。
新設された在留資格について、その特徴や要件を知っておくことで「活きた制度」になるよう外国人にアドバイスしていくことも我々行政書士の役割の一つだと思います。それを実行していくためにこれからも研鑽を積んでいく所存です。